02:世界に通用するラーメンを実現する店舗デザイン
世界に通用するラーメンを実現する店舗デザイン
「らー麺たかはし」の徹底した素材へのこだわり
-----らー麺たかはし様は2012年にオープンされた、競合のラーメン店でも比較的、新しいブランドだと思うのですが、店舗にはどのような特徴がありますでしょうか?
高橋
ひとことでいえば、あごだしに専門性を持ったラーメン店です。
あごだしは九州のほうでは古くから馴染まれている伝統的な食文化で、創業の2012年当時は、関東でなじみのない文化でした。この当時の関東でのあごだしの知名度は、ほぼ皆無だったんですね。という状態から、ラーメンを通してあごだしの魅力をみんなに知ってほしかった。2015年に新宿に移転、仲間も増えて一気に規模が拡大して、9か月目で売り上げが1千万を超えました。その翌年の全国的な「あごだしブーム」を背景に、さらに店舗展開が進んでいきました。創業からやっていることは変わりませんが、マクロな要因でも「あごだし」の人気が高まってきたというのを感じていますね。
-----なるほどですね。素材へのこだわりという部分ではいかがでしょうか?
高橋
あごだしブームによる全国的な需要の増加に伴って、原材料であるあごだしの価格が上昇していきました。そんな中で、一杯800円でどのように原価を調整していくか企業努力が必要でした。
トビウオの生態系を研究して、どこの港で漁獲するかで全く価格が違うところに着目しました。加工するプロセスも、品質がぶれないように細かくチェック項目を設定し、鮮魚の状態から干すところまで110項目まで写真を付けて、焼き方のいい例と悪い例をつけてマニュアルを徹底的に作りました。
-----科学研究のような手順なんですね。これまでは漁師さんがやっていた手順を分解して、手順にまとめてということですね。これまではほかの企業はやっていなかったことなんですか?
高橋
やっていなかったんですよ。
さらに原材料の輸送も、スケールメリットを追求して砕いた状態にし、現場となる店舗では計量してラーメンにセットするだけの状態に整えました。そうすることで仕入れの競争力をつけ、他社の追随を許さない圧倒的なアドバンテージを獲得しています。
品質・仕入れの物流・構造から変えるために、ダシの開発から製造工程を作り、セントラルキッチン方式の導入やアジアでの工場展開など、物流を意識した体制を何年もかけて調整しています。
-----すごいこだわりですね。
高橋
自分たちで仕組みから変えていかないと、人件費は削るわけにはいかないので、構造自体を良くする以外にないんですね。それに並々ならぬ努力を注いでいます。
もうひとつのこだわりがお米で、地元が新潟なので、契約農家から直接、玄米の状態で仕入れ、毎朝セントラルキッチンで精米したてのものを各店舗に送っていて、水と釜にもこだわって炊いたものをお出ししています。こうした、すべてをこだわる素材を使っているからこそ、最後は〆にダシ茶漬けとして最後の一滴までおいしく食べていただくことを提案しており、これがお客様にかなり喜ばれているポイントです。
世界で通用する「かっこいい和食」を意識した店舗デザイン
-----店舗のこだわりが表れているデザインのコンセプトはありますか?
高橋
創業当時、新潟で小さいラーメンをやっていたのですが、都心への進出に向けて物件を探していた際に、経営者同士のつながりで紹介してもらったのが秋葉社長でした。
その時は居抜きで入ったので、今と店舗デザインはかなり違いましたね。そこから新宿に移転する際に秋葉さんにデザインをお願いしました。
その店舗がメガヒットして、昼夜を問わず行列ができる伝説的な店になったんです。新宿の歌舞伎町の周囲で「行列ができる店舗」という存在自体が異例でしたね。
秋葉
13席ぐらいで500杯ぐらい出る、まさに前代未聞の店舗でしたね。当時、それまで新宿で幅を利かせていたラーメン店が1日350杯ぐらいなので、これは僕自身も革命的と感じました。
高橋
そうです。あごだしブームの影響もありますが、11坪の店舗で1500万円をコンスタントに売る店舗に成長できました。飲食店で言えば、この効率はまさに怪物ともいえる売り上げだと思います。
-----確かにそれはものすごい店舗が誕生したんですね。そこから店舗のデザイン面はどのように変遷していったんですか?
秋葉
店舗デザインについては、第一号店のイメージを踏襲することを意識しました。本店があり、銀座店があり、歌舞伎町店があって、お客様の中でブランドが固まりつつある「らー麺たかはし」のイメージの軸を崩さない、絶妙なポイントを狙ったつもりです。
-----デザインのテーマやコンセプトはどのようなポイントにありますか?
秋葉
世界基準で「かっこいい」と思ってもらえる日本食の店舗を意識しました。
もともとは歌舞伎町店を出すにあたって、外国人や世界の人々が考える「かっこいい和食」のイメージを具現化することを模索しました。ただ、本格的に和のテイストに寄せすぎてしまうと、外国人の方が使い方や入り方がわからない、という課題もありました。逆に和食から離れてしまうと、デザイン的なアイデンティティが失われてしまう。そのちょうどいいポイントを探る必要がありました。
高橋
歌舞伎町を出店する際に「歌舞伎町のシンボルになる店舗」を作りたい、という要望を秋葉社長に出したんですね。
付近にある新宿本店は、カウンターだけの店舗で、歌舞伎町店は団体でも入れるように差別化を意識しました。歌舞伎町は外国人観光客やグループ利用の需要が高い、という傾向もありました。そうしたグループ層を広くキャッチできるような、団体で入れるほど広くて、誰にでも使いやすくて、もちろん観光客の方も入りやすい、すべてにおいて圧倒的な店舗を意識したかったんです。
そう考えた時に決め手になったのは、自身が表現したいラーメン店を、店舗の理念や背景、ビジョン、その先にある社会的な大義までくみ取ったうえで、デザインとして具現化してくれたのが秋葉社長でした。
秋葉
らー麺たかはしのデザインでは、経営者としての戦略的な目線の中に、クリエイティビティを意識した店舗デザインを重視する必要がある、と感じました。
その点では、高橋社長は日本国内だけでなく、活動の場を世界に広げることを意識してらっしゃったので、お互いの求めるクリエイティブに関してコミュニケーションがスムーズで、高いシナジーが生まれたと感じています。
-----単純にスタイリッシュな店舗デザインではない、ということですね。高橋社長は秋葉社長のどのようなところに共感されますか?
高橋
秋葉社長の共感ポイントは、仕事とお客様、さらにお客様のお客様にまで、すごく尽くすところですね。お客様のスケジュールに合せて現地に飛ぶ、といったようなフットワークが抜群なところもホスピタリティが高いと感じます。
-----高橋社長がT&Cに感じるポイントは「ホスピタリティの高さ」ということですね。
秋葉
らー麺たかはしについては、そのままのデザインでもニューヨークに出しても成功できるような店舗をイメージして、その際に出るアンサーはなんだろう、ということを経営者目線で、高橋社長と同じ目線で作っていくことを意識しました。その際、CG動画はイメージを共有しやすく、フィードバックをスムーズに進められたと感じています。
-----ただのデザインではなく、お店作りから踏み込んでいく、ということですね。
世界に通用するラーメンを実現する店舗デザイン
世界への進出を見据えた上でのブランド展開とデザイン
-----今回、らー麺たかはし様は、人気店舗デザイン名鑑という業界紙にも掲載されるような飲食業界でも注目の店舗です。そうした中で、今後はどのように展開されていきますでしょうか?
高橋
現状だと成長フェーズに入っていますが、ブランドのイメージは踏襲しつつ、コストなども考慮したうえでデザインも展開していけたらな、と思っています。
秋葉
そうですね。なので、他の地方への進出とか、海外店舗など意味付けが必要な店舗などのアイデア出しや多店舗展開などにあたっての、マスターデザインの部分でご協力できるかな、と考えています。
高橋
そうですね。新しい土地への出店などに際しても、秋葉社長はオーナーや業者への提案などが非常に上手だな、という印象です。顧客のニーズをとらえるのが巧みなので、その部分で協力いただくことになると思います。
やはり日本のいいものや食文化を発信していく、ということに関して秋葉社長との共通点だと考えています。そうした視点で、世界で通用するデザインやコンセプトの打ち出しはT&Cにしかできない部分があると思っているので。
-----今後の課題などはどのようなものがあるとお考えでしょうか?
高橋
海外を目指すにしても、土台固めが重要と感じています。
まずは自分たちの目の届く範囲をしっかり完璧に展開していきたいです。
物理的な距離が管理には重要で、売り上げが低いところは人間関係が問題のことが多いんですね。そういった店舗は、基本的なコミュニケーションでの解決が可能です。物流や人事面でも、ドミナント戦略で近場かつ単一サービスが有利といわれるのはそういった理由です。まだまだ東京や関東には拡散性の高い都市がたくさんあるので、そうした店舗出店を攻めていきたいですね。
-----出店への人材育成が大きな課題になってくるということですね。
高橋
そうですね。アルバイトや社員の早期戦力化には非常に力を入れており、得意分野でもあります。入社からの経過した勤務時間に応じた段階的な教育カリキュラムも徹底的に具体化しています。盛り付けのスピードや精度、ピークタイムとアイドルタイムでの違いなど、スタッフのスキルに応じて、ポジションや時給が増える制度も整えています。
先に報酬や成長のイメージが明示されているほうが、採用時に志向性の高い人材が集まりやすい、という理由もあります。
今後の課題としては、出店計画に対応した店長の育成をやっているので、常に複数名の店長候補とトレーナーがスタンバイしている状態を作っています。ここまでしっかりとした人材育成のプログラムを持っているラーメン屋はいないのではないか、というところも強みで、店舗展開のスピードが早い理由もそこにあります。
ラーメン屋を一店舗出店して定着させるのって、確率としては低いといわれていますが、私にとってそれは決してできない努力ではないと感じでいます。
秋葉
高橋社長は、例えではなく、まさにラーメンのことだけ考えて生きている社長です。打ち合わせで会食に行った際も、ずっとラーメンと今後のビジネスの展開などを話されています。
昔から「小さい店舗でも世界に通用するラーメンにしたい、という思いに人生をかけている」ともおっしゃっていました。そうした熱量なども、同じ経営者としてのリスペクトや、らー麺たかはしに強い将来性を感じる理由ですね。
髙橋夕佳 Yuka Takahashi
株式会社ヒカリッチアソシエイツ 代表取締役
新潟大学教育人間科学部卒業後、東証一部上場の不動産会社に入社するも、育児に専念するため半年で退社。2011年4月に株式会社高い樹食研(現ヒカリッチアソシエイツ)を設立。2012年7月「らー麺たかぎ」開業。2013年8月に、コシヒカリの販売業開始。2015年2月「焼きあご塩らー麺たかはし」を開業。